二度目の恋
 辺りは暗くなっていた。月は綺麗に輝いている。村役場の一郭の明かりのついた部屋から、賑やかな声が聞こえてきた。
 テーブルを囲んで、愁と竹中とガン太と芳井はポーカーゲームをしていた。健太郎は愁の隣に座って一緒に戦っていた。
「よ~しよし。いいカードだ」
 カードを一枚引いた芳井が言った。
「ばか!俺の方が勝っている」
 ガン太は自信満々に言った。
「ガン太、自信ありそうだな。よし!賭けるか?」
「もう賭けてる」
 ガン太がそう言うと、芳井は縮こまってカードを睨みつけた。
「健太郎君は、仕事何してるの?」
 タバコを銜えながら竹中が言った。
「そうだよ愁。おまえ名前だけ紹介して、他何も言わないんだもん」
 ガン太が言った。
「分かった、分かりました。松永健太郎君は、僕の、担当の編集の人です」
 愁は笑顔で言うと、隣にいた健太郎も笑みを浮かべて頭を下げた。
「何だ、サーカス団の人だと思った」
 唯が台所からタキシードにエプロン姿で、手にはピラフを持って来た。
「はい、伝説のピラフ」
 健太郎と愁の前に、ピラフとビールの入ったジョッキを置いた。
「伝説?」
 愁が言った。
「そう、伝説。何かそう言うネーミングの方がかっこよくない?」
「そう言う問題か?」
 ガン太が言った。
「そう言う問題!」
 唯がガン太にそういい飛ばすと、ガン太は苦笑して愁を見た。そして唯は台所に戻った。
「愁ちゃんも偉くなったんだ。何か遠い存在に感じるね」
 芳井がカードを睨みつけながら、独り言のように言った。愁は目の前にあるビールを飲んだ。
「健太郎も飲めよ」
 愁が言った。
「すんません」
 健太郎は目の前のジョッキを持ち上げて、みんなに頭を下げてビールを旨そうに飲み干した。
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