二度目の恋
「うんめ~」
 健太郎の一言だった。本当に美味しそうだった。
「どんな物語を書くんだ?」
 竹中が愁に聞いた。
「う~んとね、この前連載が終わったんだけど、この前のは恋愛。これから書くのも恋愛。これからの物語はね、詩人の物語なの。ローカル電車で旅をする詩人が恋に落ちるんだ。だけど、その恋は不倫の恋なんだ。美しい景色に、綺麗な詩に包まれたような物語だよ」
「愁の物語はおもしろいです。この前の物語も最高だった」
 健太郎が言った。
「あ、それ聞きた~い」
 唯がそう言いながら台所から戻っていた。手にはお盆、他のみんなのピラフとビールを持っていた。そしてそれぞれの席の前に置くと、健太郎の前に興味深く座った。竹中とガン太も興味深く聞き耳を立てた。芳井はまだカードを睨みつけていた。
「俺は今までいろんな物語を読んできました。あくまでもこの仕事に就く前だけど……あくまでも素人の目で、愁の物語を読んだのかもしれないけど……でも、愁の物語の完成度は高かった。一人の女性を一生愛していく物語だった。純愛です。だけど、その純愛の中にも激しさはある。女は傷つき、男は女を守っていくんだ。自然がよく描かれていて、目の前にその映像が過ぎるんです。綺麗な自然の中に描かれる二人の激しくも純粋な物語は、やがて読む者を釘付けにする。悲しいラストから目が離せなくなります。俺はまだ、その興奮から冷めません」
 皆、健太郎の話を微笑んで聞いていた。
「何か読みたくなってきた」
 ガン太が言った。唯は健太郎の話に夢中になり、自分のイメージの虜になっていた。自分の中でドンドンイメージを膨らませていた。
「神霧村から天才の登場だ!」
 竹中が言うと、目の前に置かれたビールを飲み干した。
「うめ~、唯、もっとビールもってこい!」
 
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