二度目の恋
 愁の目の前に、湖は消えていた。噴水の脇からその女性は現れ、白いコートを羽織り、ハンドバッグを持っていた。コツコツと愁に近づく。二人の間をゆらゆらと落ち葉は舞い降りた。愁はその場に立ち止まりながら、女性の行方を追った。女性は、愁の立っている側に近づき、そして愁の体と擦れ違って、歩んでいった。その擦れ違う瞬間、愁の目は見開き、体に身震いが起きた。女性は青い目をしている。愁は直ぐさま振り返り、口を開いた。「み……つ……き……?」声ははっきりと聞こえなかったが、女性はその声に気づき、歩むのを止めて振り向いた。「みつき?」愁は言った。女性は首を傾げ、少し考えて、顔の表情が徐々に徐々に驚きの顔へと変わっていった。「シュウ?」女性は言った。「愁なのね」そう言うと、愁に近づいた。その女性は倉岡美月だった。白いロングコートを羽織り、手にはハンドバックを持っていた。体は細く、目も細く、まるでモデルのような体型をしていた。<綺麗だ……>愁はその美月の美しさに目を疑った。二人は見つめ合い、その再会に祝して、お店で飲むこととなった。


 静かなバーだった。客はいた。店内の明かりは薄暗く、青い電灯が所々に照らされている。客層も皆落ち着いた社会人が多く、ネクタイに背広姿の年配のカップルが殆どだ。
 愁と美月はカウンター席に座っていた。ボルドー産の赤ワインをグラスに注ぎ、その味を噛み締めた。グラスを置くと、まず口を開いたのは愁だった。「元気だった?」美月は頷き、口を開いた。「愁は?」愁は頷き「元気だった」にこやかに言った。愁が見ると、美月の左手の薬指には指輪をしていた。「結婚……したんだ」美月は頷いた。「幸せ……なんだ」美月は大きく頷いた。
「愁は?」
 美月は聞いた。
「いや、してない」
「結婚……しないの?」
「相手がいればね。生憎、まだだよ」
「今何やってるの?」
「今?小説やってる。小説家としてデビューしたんだ」
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