二度目の恋
「本当だ。うまい!」竹中も言った。「うん、美味しい……」愁はにこやかに言った。愁はまだ立っている。立ちながらピラフを食べ、答えた。だが、本当は味なんか分からなかった。何を語っていいのか、分からなかった。<僕、何をしたらいいんだろう>その言葉が過ぎる。これからの事、それが愁の頭の中に、不安として過ぎった。「愁、早く座れ」竹中だった。愁は顔を上げて竹中を見、頷いて席についた。そしてまた、手に持っていたピラフを食べ始めた。「唯、ビールを持ってきてくれ」竹中の指示で、唯は台所に向かった。
 冷蔵庫を開け、三百五十ミリ缶のビールを四本だし、戸棚からコップを三つ出してお盆に乗せ、みんなのところに戻った。ビールとコップを配ると、みんな缶を開けてコップに注いだ。唯自身は、ビール缶を持って立っている。「愁ちゃんは、何を飲む?」唯が聞くと「愁はいいよ」竹中が言った。すると竹中はコップに注いだビールを、愁の前に差し出した。「飲め!」竹中は、愁に真剣な顔をして言った。「ちょっ、ちょっと……」唯は困り「いいから飲め!」更に強い口調で、竹中は言い迫った。「たけちゃん、愁ちゃんはまだ子供なんだから……ねぇちょっと!みんなもなんとか言ってよ!」唯はガン太や芳井に助けを求めたが「愁ちゃん、飲みな」芳井は言い「飲め!愁!」ガン太が言った。「もうみんな!愁ちゃん、無理しなくていいんだからね」唯は困り果て、ちょっと弱気にもなっていたが、竹中はその唯の話も聞かずに続けた。「お前はもう大人なんだよ。亨が亡くなって、お母さんには、もうお前しかいないんだ。お前が恵子ちゃんを支えていくんだぞ。さぁ、飲め!」愁は、目の前にある、ビールの入ったコップを見つめた。「愁ちゃん、飲まなくていいからね」唯がまた、慌てて付け加えた。みんな、愁に注目した。
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