二度目の恋
静江は学生服を持って、部屋を出ていった。愁はガン太と静江のやり取りを、微笑んで見ていた。<ガンちゃんはおばさんが怖いんだ。だからいつも怖じ気つく。まあ、あのおばさんなら仕方無いだろう。何しろ気が強いんだ>
 暫くして、静江が戻ってきた。
「ほらあんた、出来たよ」
 静江は学生服をガン太に渡した。
「愁。着て見ろ!」
 ガン太は、静江から受け取った学生服を、愁に渡した。そして愁は、学生服を着てみた。ガン太は姿見を持ってきて、愁の前に置いた。
「お~ピッタシだ」
「愁ちゃん、格好いいじゃないかい」
 静江は笑顔で言った。ガン太は学生服と一緒にあった、学生帽を手に取った。
「よし!後は帽子だ」
 愁は帽子を被り、鏡を見て整えた。
「よ~し!」
 ガン太は愁を見て言った。静江が笑い、愁は満足げに鏡を見ていた。


 それから毎日郵便配達に明け暮れた。朝起きて恵子と一緒に食事を作り、掃除をして学校に行き、学校から帰るとガン太と一緒に郵便配達の仕事をした。
 それから何日か過ぎた。愁は一人で、仕事をするようになっていた。霧が濃く、仄かに小雨が降っている。愁はいつものように仕事を終え、隣町の郵便局へ向かって自転車をこいだ。そして愁は途中、自転車を止めた。そこは薔薇山の亨と一緒に行った、湖に通じる場所だった。上を見上げると樹木の枝に、目印の赤いリボンはある。愁はリボンを見、更にその上の空を見た。すると雲に途切れが出来、太陽の光がその透き間から漏れてきた。その太陽の光は、樹木に射し込み、霧は煙のように浮き上がった。その中を小雨はパラパラと降っていた。
 自転車を置き、道からはずれて草むらへ一歩踏み込んだ。一歩、また一歩進み、草を掻き分け、濃い霧も掻き分け、ゆっくりゆっくり前に進むとそこに湖はあった。
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