二度目の恋
愁は傘を放り投げ、リュウの綱を解いて草むらに入った。雨で濡れた草が体にあたり、服はビッショリと濡れる。リュウも愁の後をついていき、体で草についた雫を受け止めた。愁とリュウは歩き、そして湖に着いた。まるでここだけ、この湖だけは別世界だった。雨など一滴も入らず、ここだけ日が射し込んでいる。
 雨の降らない湖を陽気に歩いた。湖の岸に沿って、ステップを踏みながら歩く。それにリュウも愁について歩いた。そして、リュウは突然立ち止まり、遠くを眺めたかと思うと、吠え始めた。愁もそのリュウの姿に気づいて立ち止まり、リュウが吠えている遠い方向を見た。人影が見えた。遠く、目を擦って見直してもなかなか視界が定まらないほどの遠さ。愁は目を擦り、目を見開いてその人影を見ると、それはあの、青い目をした少女だった。<あの子だ……何でここにいるんだ……>愁はそう思うと走り出し、少女の影を追った。
 少女は木の影を、跨ぎ歩いている。少女は木と木の狭間を途切れ途切れに歩き、愁は少女を懸命に追った。<何処行くんだ……>息を切らし、少女を思い走った。少女と話したかったんだ。まだ誰も話したことのない少女と、話したかった。人の住んでいる気配のないあの家に、興味を持ち始めていた。少女の名前は何だろうか、家族は何人で、何故青い目をしているのか、少女の声はどんな声をしてるのだろう。愁は走って走って走りきった。だが、少女の姿はもう何処にもなかった。愁はただ一人、息をきらして立ち竦んだまま、動けないでいた。
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