二度目の恋
「十二……才……」
 愁は微笑んだ。
「僕と……同じだ……」
 美月は頷いた。
「山を……二つ越した村……私の村……」
「でも、この村が、美月の村だよ」
 愁は笑顔で言った。
「この村?」
「この、神霧村だよ」
「うん」
 美月は大きく頷いた。
「ようこそ!神の村へ」
 愁は静かにお辞儀をし、傘を持ってる手を差し出した。
「この村の神は、そなたが来られたことを、心から歓迎する。その歓迎の意として、この傘を進ぜよう」
 愁は顔を上げた。
「風邪引くよ」
 そう笑顔で言うと傘を美月に渡し、走って自宅へ戻っていった。その二人の光景を、何者かが部屋の窓から覗いている。
 美月は愁が家に入って行くのを見届けると、傘を差してゆっくりと歩いて家の玄関に向かった。そして玄関の前に立つと傘を閉じ、少し家の中に入るのをためらうかのように、ジッと立ちつくした。傘をグッと握り締めたかと思うと玄関の横に放り投げ、そして玄関のドアノブをそっと回して家の中に入っていった。美月は髪も服も体中がビショビショで、水が垂れて一瞬のうちに床に溜まった。下駄箱下にあった雑巾で体を拭い、そしてその雑巾で床に垂れた水を拭いた。美月が床を拭く姿は、何か焦っているように見え、何か脅えているようにも見えた。
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