僕のとなりは君のために
「市川岳志」

どこからか名前が呼ばれた。

「おい、市川いるか?」
まただ。

「・・・・・・はい。います」

両目を閉じたまま返事をした。

クラスの連中の笑い声が聞こえて、目を開く。

「いるなら返事しなさい!」

先生は子供を叱るような口調で僕に言った。

「すみません・・・・・・」

笑顔でごまかそうと思った矢先に、

「市川岳志!」

まだ誰かが呼んだ。

なんだ。出席ならもう取ったぞ。

「市川岳志!」

うるさいな。少しは寝かせろ。

「市川岳志! 私を部屋に連れ込んで、何をした! この変態!」

うん?

「出て来い! この変態!」

この声はどこかで聞き覚えがあると思った。

「!!」

立ち上がって窓を開け、声のする方向に顔を出した。

「あっ!」

案の定、君がいた。

昨日と違って、君は青いタンクトップに白いシャツというラフな格好をしている。相変わらずジーンズ姿で、小さなリュックを背負っていた。

君だ。君がいる。

君が僕を探してわざわざ学校まで来てくれたのだ。呼び方はどうあれ、これでまた君に会うことができる。

僕は驚き、困惑と共に、どこか浮き足立った感情が胸に生じた。

次の瞬間、その喜びが粉々に崩されるとも知らずに。

「あっ、いた! この変態! 降りて来い!」

「は?」

君は僕を見るやいなや、怒声をあげた。

「このやろう! ぶっ殺してやる!」
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