僕のとなりは君のために
「これ、乗ろう」

君の指先に観覧車があった。

「乗ろうって、観覧車に?」

「うん」

「えっ、でも・・・・・・」

僕は少し戸惑いを感じた。

僕の中ではある定義があった。

それは、観覧車は最後に乗るものだ、と。

世の中の男性諸君はどう思うかは知らないが、この定義は僕の中では絶対と言っていいほど譲れないものだ。

デートの最中ではなく、フィナーレとして、少し興奮の余韻を味わいながら、夕日に向かって登っていく観覧車に乗って、好きな女の子の唇にそっと自分の唇を重ねる。

なんてロマンチックだ。まさに最高のテートに飾る最高のフィナーレではないか。

「やめようよ。まだ日が高いし」
僕は言った。

「だから?」

君は少し僕を睨んだが、ここで怯むわけにはいかない。

「だから今は乗りたくない。もうちょっと日が落ちてからにしよう」

珍しく僕は君に口答えをした。
多分君と出会って初めてのことなのかも。

これは僕の譲れない部分だから、少し強気でいこうと決めた。

「はぁ? そんなに待てない」

「じゃ、一人で・・・・・・」

「なにっ?」

君の目がキーンち光った。

「死にたい?」

「・・・・・・いえ」

「乗るよ!」

「はい・・・・・・」

敗北。

肩をがっくりと落として、僕は君に従った。

譲れないものはあるけど、命と比べたらやっぱり軽いと思った。

それにこれはデートじゃなくて、拉致だ。不可抵抗力だ。

だから自分の信条に従えないのも仕方がない。
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