僕のとなりは君のために
ページを開いた。

書き出しに「もう彼が死ぬ。あたしは彼を救いたい」と書かれてあった。
たちまち気分が鬱になってきた。

文字を追っていくと、急な展開や無茶なセルフが目立った。

素人の僕でも、これはまずいと思った。

おまけに、結末はヒロインが主人公の顔を殴り、死からよみがえらせたというコミカルなものだった。

まるで自分の凶暴性を美化するようなものだ。

顔をあげると、君が「どう? 面白い?」と微笑んできた。

「…………はい……とても……」

そう言うしかなかった。
君の顔が笑っていても、右手の拳に密かに力を入れたのを、僕は見逃さなかった。

「そう? やっぱり?」

君は子どものようにはしゃいだ。

「これって、ファンタジーなの?」

「いや、違うわ」

「じゃあ、この生き返ったというエンディング、ちょっとまずくないか」

「なに!」

君の晴れ渡った顔が一瞬にして曇る。

「これのどこがいけないのよ! 生き返ったんだよ。感動的じゃない?」
「いや、そういう問題じゃないと思うよ……」

「じゃどういう問題よ!これがあたしのベストなの!」

「ベストって、まず現実にそれが起こりうることなのか?」

「ほう……言うじゃない」君は一瞬静かになってから

「なら、あんたがこの結末を作ってみなさいよ。男女の別れに、最高のエンディングをね」

と無茶なことを言い出す。

「……いや、無理だよ。僕は素人」

それは君もだけど、とまでは言わなかった。

「なら生意気なこと言わないで」

「意見を求めてきたのは、そっちだろ……」

「なんか言った? 殺されたい?」

「いえ……」

気まずい空気が流れた。
僕が君を怒らせてしまったのか、君は口を尖らせて、僕を睨んだ。

安直な意見を口に出してしまったことを後悔し、僕は君のセンスにあった結末を考えないと一生許してもらえないかもしれないと思った。

仕方なく普段使わない脳味噌を回転させ、脳細胞に祈りを捧げた。

そのときだった。

観覧車のドアが“カチャ”と音をたて開けられた。

もう一周したのか。

従業員の「ありがとうございました」の明るい声が幸いの救いだった。
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