僕のとなりは君のために
第二章
そう。
とにかく記憶のはじめにあるのは、彼女の白いブラウスから透けて見えた、黒い下着だった。

彼女との記憶を語るには、どうしてもここから始めなければならない。
これは僕が彼女を見た最初の光景であり、彼女の印象を位置づけする大事な場面でもあるのだ。

彼女の名前は、宮木奈美子である。

名前の通り、彼女はものすごく美人だった。同世代で騒がれるような可愛さではなく、彼女はきちんとした大人の魅力を持っていた。

冷静な口調や明晰な頭脳、時折彼女は本当に十五歳? と思ったこともしばしばあった。

黒い下着に包まれた奈美子は、ほかの大人に憧れ、精一杯背伸びする女子たちと違って、彼女は至って自然体で、さりげなく控えめに自分の魅力を周囲にアピールしていった。

そんな奈美子は、男女生徒問わず、先生からも寵愛を受けることになるのが言うまでもない。

彼女は常に輪の中心にいて、常に明るく振舞っていた。唯一の不幸といえば、彼女は約二年間、僕の前に座っていたことなのだろう。

前も述べた通り、僕はひどく変わった人間であった。
朝の電車には乗れず、いつも通勤ラッシュが過ぎるのを待って、電車を2,3本遅らせてから学校に向かったのだ。
そのせいで、学校に着く頃にはニ限目が始まる時間だ。

そんな僕に、奈美子は前に座っているというだけで、二年間も付き合わされたのだ。

あとになって彼女から聞いたが、毎日出席を取る際、先生は必ず彼女に「後ろの市川岳志はいるか」と聞いたそうだ。
そして毎回の事ながら、彼女は「いません」と答えた。

二年も経つと、自然に奈美子の中である定義ができあがっていた。
それは、市川岳志イコール存在しないというものだ。

だからたまに彼女と居合わせると、彼女は決まって「今日はいるのね」と僕をからかった。

そういう僕はいつも戸惑いながら、彼女の視線から顔をそらし、ぎごちない笑いで誤魔化していた。


そんな日々が二年も続いた。
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