僕のとなりは君のために
だが、僕の勝利とともに、奈美子の黄色い喝采が、僕に勝利の女神がまだ傍にいることを知らせてくれた。

「すごーい! 私もこのゲームにハマってるの。ねぇねぇ、教えて」

奈美子が子供のように僕の腕を掴んできた。意外な一面を見た気がする。

すこしドキッとしたけど、

「いいけど」

とぶっきらぼうな声を出す事しかできなかった。

僕は立ち上がり、彼女に席を譲った。

彼女は驚くほど不器用な姿を見せてくれた。同時に指を二本以上に動かせないのだ。
人差し指でゲームのボタンをタッチするように遊んだ。

不憫だと思った。

これも意外な一面だった。

「違うよ。これはこうやるんだ」

少しかがんで、僕は彼女の手を握り、いざ反撃開始。

素晴らしいひと時だった。
二人で一緒に叫んで、一緒に笑った。

あのゲームがいつまでも続いてくれるような気がした。
彼女の髪から嗅いだシャンプーの匂いを、いつまでも感じていたかった。



思えば、あのとき、僕は恋に落ちたのだ。



ゲームが終了した。
楽しい余韻を胸に抱きながら僕らは見つめあった。

僕ははっとなり、彼女の手を離した。

「ごめん・・・・・・」

いよいよ気まずいときがやってくる。
ゲーム終了したと同時に、僕は奈美子にとって用なしとなった。

でも、まだ居たい。まだ帰りたくないと、思うのは僕のわがままだろうか。

僕が立ち尽くしていると、奈美子はまるで僕の心情を察知したかのように、ごく自然に僕の手を引いた。

「ねぇ、あのぬいぐるがほしい。取ってくれる?」


やっぱり彼女は大人だった。
< 27 / 64 >

この作品をシェア

pagetop