僕のとなりは君のために
次の日に、僕の足は自然とゲームセンターに向かった。
いつもは目的がなく、なんとなく来ていたのに対し、今日は明確な目的があった。

奈美子がいるわけがないとわかっていながら、僕は自分を止める事ができなかった。

案の定というべきか、昨日の遊んだ場所に彼女の姿はない。

肩を落として歩くと、首がギシギシと痛み出した。首を少し傾けて、骨を鳴らした矢先のことである。

「市川くん・・・・・・」

振り返ると、奈美子がプリクラ機の隣りに立っている。

来ていたのか。

手を振り、僕は彼女のいる場所に走った。

「ねぇねぇ、このプリクラ新機種だよ。一緒に撮らない?」

奈美子は長い髪を払い、澄ました瞳で僕を見た。

「えっ・・・・・・これを?・・・・・・」

僕は戸惑った。正直なところ、僕は小さいときから写真がものすごく苦手なのだ。

写真を撮るためにわざわざポーズを取るなんて馬鹿らしく思える。作り物めいた表情がたまらなく嫌だったことを、子供のくせに感じていた。

大人になればそれが治ると思っていたけど、現実いつもまで経っても治らないのだから、ある意味ではいつまで経っても子供のままなのかもしれない。

「いえ、僕は・・・・・・その・・・・・・写真が苦手で・・・・・・」

僕は風にも負けそうな小さな声で彼女に伝えた。

「そう・・・・・・じゃ仕方ないわね」

奈美子も小さく答えた。長い睫毛の下にとても残念そうな瞳があった。

「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

写真を撮れない僕は、もはや奈美子にとって不要な人間なのだ。これでいよいよ行き手に詰まった。

写真は撮りたくないけど、彼女と一緒に居たい。
彼女を断っておきながら、彼女と共に行動したい。

矛盾する気持ちが渦巻きのように、胸の奥で葛藤する。
この袋小路を脱出するには、勇気がいるのだ。

「あ、あの・・・・・・」

渇きが喉を襲う。

「コーラとか、飲む時間ある?」

「ある」

と彼女は微笑んだ。
< 29 / 64 >

この作品をシェア

pagetop