僕のとなりは君のために
第三章
「本日お集まりいただき、本当にありがとうございます。今回、我が部は残念にも五位で終わることになりましたが、来年こそ優勝を狙いたいと思います」

部長らしき人物が中庭のベンチに立ち、高々と宣言をした。

映画研究会の打ち上げで、毎度のことながらなぜか僕が呼ばれていた。おおかたの理由は見当ついているが、どうしてみんなが幽霊部員の僕を忘れずにいるのが不思議で仕方がない。

大学に入った当初、自分を変えたい、自分が変わらなきゃ誰も自分のことを好きになってくれない、という焦りから勢い任せで映画研究会の部員募集ノートにサインをしたが、よくよく考えてみれば映画なんて自分にはまったく向いていない。

自分の唯一の能力といったらゲームのキャラを操ることなのだから、ゲーム研究会があれば喜んで入るのに、残念な事にそんなサークルは聞いたことすらなかった。

そういうわけで、僕は幽霊部員になり、先輩たちもこんなやつは使えないと思ったのか、今日みたいな飲み会の時しか僕は呼ばれなくなっていた。

普段は使えないのだから、今日みたいな飲み会の時くらい役になってくれよ、というのは先輩の言い草である。

要するに飲み会を開くための資金をよこせ、ということだ。金さえもらえれば、あとは居ようが居まいが僕の勝手というわけ。

部長が合図を送り、部員たちにビール飲みの器を配らせる。

拳が二つほど入るプラスチックのバケツである。眺めながら、いつものことながら笑ってしまった。これで酒を飲むのだから、今更驚きを通り越して呆れるばかりである。

「すごい! なにこれ!」

隣りの女の子から歓声が聞こえてきた。

新入部員なのだろう、声はなんだか楽しそうだ。しかし、笑っていられるのも今のうち。今に馬鹿を見るさ。

そんなことを考えながら僕は振り向いた。

「げっ」

声を漏らさずにはいられなかった。

僕の後ろに立っていたのは、君だった。

君はバケツを頭に被ったりして遊んでいた。やがて、君は僕に気づくと上機嫌に鼻歌を歌って僕の傍に来る。

「ねぇ、これなに?」

「なんでここにいるの?」

僕は君の質問を無視した。

「私はあなたの先輩だから、学校にいて当たり前でしょう」
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