僕のとなりは君のために
(2)

正直に言おう。

あのとき、僕はてっきり自殺しようとしているのは、僕の元彼女だと思ったんだ。

ピンクのセーターにジーンズは彼女の最も好むファッションだった。それと必須アイテムのリュックをしょっていれば、まさに彼女そのものだ。

だから君の後ろ姿を見たときの僕は深い霧のような既視感を覚え、奈落の底に落ちていく恐怖さえ感じていたのだった。

愛しくて、会いたい。だけどもう彼女は僕の手の届く場所にはいなかった。そういった悲しい喪失感が再び手足に浸透していった。

電車がきた。

知らないうちに僕の身体は動き、間一髪で彼女を引き戻すことができた。
彼女の手はとても温かかった。まるで真冬のに湯たんぽを懐に入れてるようなほのぼのとした感じだった。

僕は彼女の手がとても好きだった。猫の肉球みたいにぷにっとした柔らかさがたまらなかった。

次の瞬間、僕はありったけの感情を爆発させた。
全身に力が入り、気づくと精一杯の力で彼女を抱きしめていた。

「ごめん・・・・・・」

アゴが震え、僕はつぶいた。

「ごめん、じゃないわよっ!」

えっ!

彼女から声が聞こえてきた。一年ぶりなのに、声がずいぶんと細くなったもんだ。

やっと自分の決定的な間違いに気づいた時には、もうすでに遅かった。

彼女の右ストレートパンチが見事に僕の顔面にヒットし、さらに続けざまに一発のアッパーと蹴りが僕の鼻やボディにそれぞれ命中した。

ホームの床に倒れこんだ僕は見上げた。長いストレートの髪の下から彼女はその端正な顔を覗かせてくれた。

元彼女の彼女ではなかった。


音子。

これが、僕たちの最初の出会いだったんだ。

どう? 少しは驚いた?
でも驚くのはまだだよ。君はさらに僕の目を疑うようなことを平然とやらかしたんだから。
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