僕のとなりは君のために
「すみません! 人違いだったんです」

僕は即座に自分の過ちを言葉にし、謝罪の意を口にした。

だけど君は言葉すら発さず、面倒くさそうに、まるで蝿でも追い払うかのように、行けと言わんばかりに手を振った。

むっときた。
確かにこっちに否があるけれど、君だって僕を殴ったんだから、もう少し誠意を持って対応してくれてもいいんじゃないか。

君の赤く染まった頬を見ていると、僕は気づいた。

君は、酒に酔っているのだ。

電車に乗って、僕は自分の家に向かった。

僕は右側の入り口に立っていて、君は僕を睨むように反対側の入り口に立っていた。

目を合わさないように僕は下を向き、でも時折視線を感じ、チラチラと上目遣いで覗くこともあった。

君は最初、僕を睨み、やがてそれに飽きたかのように顔を手すりに置き、立ったまま爆睡し始めたのだった。

少しほっとして僕は顔を上げた。目が合ってしまったら今度こそ何されるかわからない。

あらためて君の寝顔を見た。君の後ろはとても僕の元彼女に似ているが、正面から見るとやはり全然違っていた。

彼女は細長い顔つきに対し、君はどっちかというと小顔だった。ほっそりとした頬のラインに、まるで赤ちゃんみたいな柔からそうなアゴをしていた。薄っすらファンデーションの下に白い肌を覗かせてくれた。

そして、元彼女とまったく違うのは、君は寝ていても、長い睫毛の下から気の強さみたいなものが滲み出ているのだ。

もしこんな性格じゃなければ、きっと男どもはほっておけないだろうな、と一人で妄想を膨らませる。

突然、電車が揺れた。
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