僕のとなりは君のために
帰り道。

一度病院で検査をし、その後警察の尋問めいた事情聴取を受け、解放されたときはすでに夕日が落ちていた時間帯だった。

僕は君の手を握り、歩いた。

「この手はなに?」

君は何かを思い出すかのように言う。

「なにって、僕の手だけど」

「ふーん。なんで握ってるの?」

「それは・・・・・・」

「水虫菌がついちゃうよ」

水虫菌・・・・・・

まずい!

君は僕の思ったよりも記憶力に優れているようだ。

「み、水虫菌? なんだそれ? あははは・・・・・・」

僕はカラ笑いをした。

でも、君は笑わない。

「怒ってる?」

「この野郎!」

君は手を振り上げた。

殴られる、と思った。

しかし、いつまでも殴られた感覚がないので、僕は少し目をあけて君を見る。

「ばぁか。殴るわけないでしょう」

君は愉快に笑っている。

「あなたは私を守ってくれた人だもん」

「結局君に助けられたけどね」

「うふふ。でも、水虫菌は心外だな。私そんなに汚い?」

「いや、そんなことないよ!」

僕は慌てた。

「じゃ、ここでキスして」

「えっ」

「いや?」

「いやじゃないけど・・・・・・」

「いやじゃないけど?」

僕は周りを見渡した。いくら夜とは言え、まったく人が歩いてないわけじゃない。

「人が・・・・・・」

「ふーん。やっぱり私のこと汚いと思ってるんだ」

「思ってないよ!」

「じゃキスして」

「でも・・・・・・」

「ほら、誕生日プレゼントくれるって言ったでしょう」

「うん」


「じゃ、キスして」
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