僕のとなりは君のために
第四章
音子。

とうとう君とキスをしてしまったね。

君と出会ってわずか一ヶ月と二週間のことだ。


よく覚えているでしょう?


僕は君との大切な思い出ならなんだって覚えているよ。

いつかの日にまた君と会って、いつでも君に答えられるように、僕はたまにこうして僕たちの思い出を整理するんだ。

整理するということは、再びその場所に行って、君を愛するということだ。

君のぬくもりを感じ、また君を愛することができる。

もう君とは会えるかどうかはわからないけど、僕は確実に君のそばにいるよ。

素晴らしいね。

思い出すという機能は、人間が備えているもっとも素晴らしい機能のひとつだと僕は思うよ。

そう。

とにかく君とのファーストキスは甘くて、幻想的だった。

街路灯が君を照らし、君をいつも以上にキレイにうつしてくれた。

夜の通りにはまばらに人がいたけど、誰一人として僕たちをとがめる人間はいなかった。

人前でキスすることにいささか抵抗はあったけど、相手が君だからそれも良く感じていたのだ。

世間では、人前でいちゃつくカップルへの評価は厳しい。

還暦を迎えたお爺さんが杖をもち、恥を知れ、ととがめる姿は誰にでも簡単に想像できるのだろう。

しかし、カップルたちは決して恥を晒してるわけではない。

誰もがこの胸に、生まれたての雛のような小さな小さな鼓動を抱いて、愛する人とその鼓動を確かめ合う。

そして、精一杯の愛情を持って、それを身体で表現する。



人生はなんていいものなんだろう。
愛する人がいることはなんて幸福なことなんだろう、って。



できることなら、見ず知らずの人間にもその至高の喜びを分け与え、祝福を授ける。

素晴らしいね。


本当に、素晴らしいよ。
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