僕のとなりは君のために
「おい! 岳志じゃないか!」

変なのが呼んでいるので、とりあえず無視した。

三歩も出ないうちにまた、

「無視すんなよ」

と肩が掴まれたので、一応振り返ってあいさつした。

「信雄・・・・・・」

数週間ぶりの信雄は相変わらず黒かった。

前髪を常に気にしているにも関わらず、切ることはない。

尻を半分だし、ジーンズをモップ掛けのように引きずりながら、彼は僕の前に来ると

「なんで無視すんだよ」

と、拗ねる口調で言う。

「はぁ・・・・・・」

いつもながらなぜ僕は彼のような人間と友達なのだろう。

性格も容姿も正反対なのに・・・・・・多分誰の目から見ても彼と僕は違う世界に住む人間に映る。

しかし、これも何かの縁だろう。

僕は彼のような人間は好きじゃないけど、彼は嫌いではない。

面倒なしがらみはなく、気楽な付き合いで留まるこの楽さが、多分僕は気に入っているのだろう。

「朝からなにしけたツラしてんだよ」

信雄が顔をのぞきこんできた。

「いや、そっちが元気すぎて羨ましいよ」

「それよりさ」

信雄が周りを見回すと、ニヤリと笑った。

「俺がいない間に、ずいぶん可愛い子が増えたみたいじゃないか」

「新入生が入ったんだよ。たまにしか学校に来ないからわからないのさ」

「そうか。そういえばもうそんな時期だな」

毎度ながら、この人の気楽さには舌を巻く。

「ふーん。せっかくだし、いっちょうナンパしてこうぜ」

「お断りします!」

頭痛がするし、いまの僕にはそんな余裕はない。

もっとも余裕があっても、付き合わないけど。
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