愛シテアゲル



 今日の講義は二時で終わる。その後、夜の十九時までバイト。バイトが終わったら、そのパーティーに参加する。

 毎日毎日、なにかしら予定が入っている。スケジュール帳のどの日もどの時間も埋め尽くされている。だけれどこれが小鳥の日常だった。

 ガレージに向かい、今日も青いMR2へ。
 青いドアにキーを差し込んだ時だった。

「おはよう」

 龍星轟の紺色作業着姿の青年がガレージの入り口に現れる。
 小鳥の胸がドキドキとせわしく動き始める。

「お、おはよう。お兄ちゃん」

 桧垣 翔。ずっと小鳥が片想いだった十歳年上のお兄さん。龍星轟社長である英児父の部下。

 一重のクールな眼差し。それとはうらはらに、八重歯がちらりとみえる笑顔がとても素敵で、初めてこの笑顔を見た時から、毎日それが見たくてときめいてきた。それが今日もここに。

 そのお兄ちゃんが薄暗い朝のガレージへと入ってくる。

「今日もバイトだろ」
「うん」
「サークルの仲間と集まるんだよな」
「うん……」

 五日前。この彼と両想いになっていたことを知ることが出来た。つまり……もう『恋人同士』。だけど、まだ五日目。あれから二人きりで会う時間もなかった。

 そしてなによりも。この五日間、彼からなんの誘いもなかった。

 小鳥がハタチになるまで待っていた――と言ってくれたのに。そのハタチの日にどうするか。何も言ってこなかった。そして小鳥も、ハジメテの彼氏に対して、いきなり『一緒にいて』と言えずにいた。
 

「今夜、おいで」
 

 大好きな笑顔でお兄ちゃんがさらっと言ったので、小鳥は呆然としてしまった。


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