愛シテアゲル
「にいちゃん達も、板金と塗装よろしく頼むわ。身内の車で悪いけどよ」
英児父は社長と呼ばれるようになっても、自分が引き抜いてきた『整備の先輩』である清家おじさんと兵藤おじさんのことは、いまでも『にいちゃん達』と呼ぶ。
「エンゼルは龍星轟を代表する車だろ」
「そうだよ。英ちゃん、気にすんな。任せてくれ」
小鳥からもお願いをする。
「おじちゃん達、お願いします。私がうまくやり過ごせなくて、こんなことになってしまって、ほんとごめんなさい」
お店の仕事を増やすことになってしまい、小鳥は深く頭を下げる。それでもおじちゃん二人は笑ってくれる。
「こんなぶつけられ方されたのに、怪我なしでよかったじゃないか。うまくかわせたし、追い返せたんだろ」
「そうだ。小鳥が無事でよかった。しかもインカーブでランエボを抜いてやったなんて、さすがだなあ」
本当は小鳥もムキになっていたんだろうと、おじさん二人が小鳥をからかう。
「ムキになんてなっていないよ! ちゃんとおじちゃん達に教わったとおりに、やりすごそうとしたんだもん!」
ここでムキになって否定したので、整備達人のおじさん二人は『どうだか』と笑いだした。
でもそれで、ピットの中の空気が和らいだ気がした。