愛シテアゲル
「ねえ。小鳥ちゃん。今日は琴子お母さんのゼットだったじゃん。どうしたの。気分?」
カフェ販売部のカウンターで買ってきただろうサンドウィッチを食べもせず、暫く放って鏡でお化粧や髪型をチェックするのもいつもの彼女だった。
でも。何かが違う。
小鳥は箸を置き、ひと呼吸間を入れてから、花梨に真顔で向き合った。
「どうしたの。花梨ちゃん。なにかあったの」
数日間、姿も見せずにどうしていたのか。
「……山口、行ってきたんだ」
驚き、小鳥は目を見開く。花梨はまだ鏡を見ていて、小鳥の目は見てくれない。
「静かで緑も綺麗、町並みも綺麗、所々古い家とか建築物があって趣があって。国宝の五重の塔があったりして、歴史的重要文化財の宝庫。室町時代に栄えただけあって遺跡もいっぱい。本当に古都ってかんじだった。小さいながらも、街の中心に市民で賑わうアーケード街があってね。そこにあったわよー。先輩の実家。和菓子屋さん。白い暖簾があって、ほーんと老舗って感じで」
そして花梨は、持っていた大きなトートバッグから小さな木箱を小鳥に差し出した。
「お土産です」
桐のような木箱に白い熨斗のような紙が巻いてあり、そこに筆文字で『花鼓』と記されている。菓子名の側には季節の花なのか、椿が描かれていた。いかにも和風。
「まさか。これが……」
「そう。皇室御用達のお菓子。食べてみて、びっくりするから」
まだ食事中だけれど、とても気になって小鳥は丁寧に上品な包み紙を取り去り、そっと木箱の薄い蓋をとった。