愛シテアゲル


「こんにちはー」

 やっとスミレがやってきた。

 彼女は教育学部幼児科で保育士になる勉強をしている。ピアノを活かしてというが、おっとり優しい気配り上手の彼女にぴったりの進路だと思っている。

「遠くからお二人をみていたら、すっごい怖い真剣な顔でお話していましたけど」

 清楚なブラウスとキュロットスカート姿、ふわっと愛らしいボブカットになったスミレは、高校生の時よりあか抜けていた。

 今日の彼女はお弁当。彼女こそ、この大学の校風にぴったりの堅実なお嬢様といったところ。

 お弁当の包みを小鳥の隣の席において、スミレも座った。

「痛いのどうするって話をしていたのよ」
「痛い? なにが痛いんですか」

 眼鏡の顔できょとんと返すうぶそうなスミレを見て、花梨がちょっとからかい加減に笑っている。

「アレのハジメテの時って、痛いよねーって話」
「え、アレのハジメテって、アレのことですか?」

 まだ男慣れしていないだろうスミレが、頬を染めた。花梨はこうしてからかって楽しむことがたまにある。花梨の悪いいたずらに、小鳥は密かに苦笑いを浮かべてしまう。

「でも。ほんとそのときだけですよね。それに、本当に好きだから痛いことも忘れちゃうと思いませんか」

 え!? なに、その……いかにも経験済みのような落ち着いた返答!? まさか!!?



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