愛シテアゲル
8.もう一度、キスをして。(1)
大学の講義が終わり、アルバイトのために郊外から市内へと小鳥は向かう。
暫くは、母親のフェアレディZか、英児父のスカイラインを借りて通学することになった。
琴子母も、小鳥が乱暴な車と接触したことを知ると非常に心配をして『当分は峠にいったらダメ』ときつく言いつけられてしまった。そして英児父も『考えたくねえけど、もし龍のステッカーを目印に襲っているとしたら、帰宅が遅い琴子のゼットも危ねえ。母ちゃんは走り屋みたいなぶっとんだ運転はしないからよ。目をつけられたら小鳥よりひでえことになるかもしれない』――と、真っ青な顔になったかと思うと、明日から琴子は俺が送り迎えをすると言い出して、運転がしたい琴子母を困らせていた。
だけど、そう聞くと小鳥も母のことが心配になる。小鳥の場合、どのおじさん達からも『小鳥の勘の鋭さは、父ちゃん譲り』と言われていて、ハンドル裁きも女性ながら『男顔負け』と言ってもらえるが、母の場合は、おっとりしていてどんなに運転慣れしているといっても『ドリフト』ができるかと言えば、そうではない。
年齢の割にはお嬢様気風の愛らしい雰囲気もそのままの、琴子母。あの親父さんが未だに『琴子は可愛いな、可愛いな』と鼻の下をのばしっぱなしなほど。今でも英児父の可愛い奥さんで、おっとり奥様そのもの。
そんなお母さんが、あんな乱暴なランエボに煽られて、ハンドル操作を誤って事故を起こしたら……。そう思うとぞっとする。
父ちゃんに送り迎えしてもらうのが、一番、安心。弟たちも同意見で、子供達に心配されて、ようやっと母も英児父に送り迎えをしてもらう決意をしてくれた。