愛シテアゲル
バイト先は、城山が見える街中にある。
スタッフ専用の駐車場に銀色のフェアレディZを停車させ、スタッフルームで小鳥は制服に着替える。
肩先まである黒髪をぎゅっと一つに束ねる。制服は白いシャツに黒い蝶ネクタイ、黒いベストにタイトスカート。そして黒いローファー。鏡で身だしなみをチェックし、小鳥は『スタッフ専用出入り口』のドアを開ける。
「おはようございます」
扉を開けると香しい珈琲の匂い。目の前のカウンターで凛とした佇まいで珈琲を淹れるスタッフ達。
「滝田さん、これを10番テーブルまでお願いします」
「はい。了解です」
厨房から出てきたものを銀色のトレイに乗せる。オーダー票をチェックして、厨房からできてたドルチェの注文のほか、アイリッシュコーヒーとロイヤルミルクティーが注文されていることを確認。『ドリンクもあがったよ』という声を聞き、注文の品だと確認して、すべてを乗せて小鳥はカウンターを出る。
「お待たせいたしました」
10番テーブルのお客様は、買い物帰りのマダムお二人だった。
「滝田、カウンターに入ってくれ」
「はい。店長」
店長に言われ、小鳥はカウンターに入る。
小鳥はまだ客にドリンクを出すことは許されていない。ベテランがドリンクを作るアシスタントのみ。ただし、店長の監督付きで淹れることもある。
老舗喫茶、真田珈琲、本店。
そこが小鳥が二年間お世話になっているアルバイト先。