愛シテアゲル
専務の奥様は再婚になる。前の嫁ぎ先は島の果樹園。そこのご主人が若くして亡くなったため、彼女も若くして未亡人。でもその後もご主人が遺した果樹園を守ってきた。それは真鍋専務と再婚後も。伊賀上マスターがこの果樹園の柑橘を贔屓にしてるので、そこから琴子母と真鍋夫人のおつきあいが始まった。
そんな子供の頃から小鳥を知っていて、よくしてくれたおじさんが、この街一番のカフェにいる。この『真鍋のおじさん』がいるので、本当はこのカフェでのバイトは避けたかった。ここが街一番の喫茶でなければ、ほかの店へアルバイトの面接に行っていた。
縁故とか思われたくないし、おじさんと知っている子供という関係で遠慮されてもイヤだし、遠慮されなくても真鍋のおじさんには迷惑かもしれないと悩んだ。
『おじいちゃんは、この城下町で一番だと思っているお店はどこ』
漁村のおじいちゃんに聞いたとき。
『真田珈琲だね』
伊賀上のおじいちゃんがそう答えたときから、小鳥はそこで働くことを決意していた。もう、子供の時からずっと。
そこは譲りたくなかった。子供の頃からの知り合いがいても、ここだと決めていたところに行きたかった。
だけれどその心配は要らなかったよう。真鍋のおじさんは、小鳥だからこそ遠慮なく厳しくしてくれる。伊賀上のおじいちゃんにもよく言われる。『真鍋君の教えは間違いない。小鳥のためになるよ』――と。