愛シテアゲル
「また試されて小言を言われるみたいだな」
小鳥がドリップを始めた横で、常に監督してくれる店長がため息をついた。
「いいんです。一年、二年そこらでは、淹れ方を覚えても、腕前はないんですから」
「そりゃ。そうだけれどなあ」
四十代の宇佐美店長も浮かない顔。
「滝田の腕が上がらないと、俺もなあ……」
指導係に任命されているから、小鳥の成長が認められないと、彼の責任も問われる。なので、二階の事務所に三代目の真田美々社長と先代二代目の真田輝久会長が揃って『本店スタッフの誰かが入れるお茶』をたまに所望すると、宇佐美店長の管理者としての資質も問われる。それが店長にとっては、かなりのプレッシャー。
特に小鳥。ここにアルバイトに面接に来た『理由』が皆によく知れ渡っている。
ロイヤルコペンハーゲンのカップに珈琲を。同じシリーズの茶器でお茶を楽しむ準備を整え、トレイに乗せ店からスタッフルームへ。そこから事務所への通路を通り、二階に上がるケヤキの階段を上る。
「失礼いたします」
狭い事務所のドアを開けると、小さな応接ソファーに白いスーツ姿の女性と、白髪だけれどイタリア男性の如くシンプルな服をスタイリッシュに着こなしている年輩男性が向かい合って座っている。真田の父娘だった。
二人はすでに一つの書類を間に、額をつきあわせ真剣な顔でなにやら言い合っている。先ほど声をかけてきた眼鏡の専務は、会長の隣に座って神妙な面もちで黙って聞いていた。