愛シテアゲル


「本日のオススメ、キリマンジャロです」

 話し合いの邪魔にならないよう、控えめに声をかけ、床にひざまづいて各々の前にそっとカップを置き、ミルクピッチャーやシュガーポットを揃えた。

 最後に、真鍋のおじさんの前に珈琲カップを置くと、そこで真田父娘の話し合いがぴたりと止まってしまった。

 しんとした静けさの中、お偉いさんお三方の視線が小鳥に突き刺さる。

「二杯、とオーダーしたはずだ」

 真鍋専務の眼鏡の視線が痛い。

「余計なことでしたでしょうか。申し訳ありませんでした」

 頼まれていない三杯目を専務の前に置いた。それを小鳥はそっと下げようとすると、その手を真鍋専務に掴まれる。

「いや。ありがとう。小鳥」

 おじさんとしての一言を耳にして、小鳥は少しばかりの反省をする。そんな小鳥の顔を見た白いスーツ姿の美々社長が笑った。

「知っている子供が淹れたから、ありがとう。でも、専務としては余計なことはするな。小鳥はちゃんとそれが解ったみたいよ。どうなの専務」

 華やかな金茶毛をきらめかせ、いつもきらきらしている三代目、女社長の美々が小鳥の心中をすべて読みとっていた。


< 119 / 382 >

この作品をシェア

pagetop