愛シテアゲル
「本日のオススメ、キリマンジャロです」
話し合いの邪魔にならないよう、控えめに声をかけ、床にひざまづいて各々の前にそっとカップを置き、ミルクピッチャーやシュガーポットを揃えた。
最後に、真鍋のおじさんの前に珈琲カップを置くと、そこで真田父娘の話し合いがぴたりと止まってしまった。
しんとした静けさの中、お偉いさんお三方の視線が小鳥に突き刺さる。
「二杯、とオーダーしたはずだ」
真鍋専務の眼鏡の視線が痛い。
「余計なことでしたでしょうか。申し訳ありませんでした」
頼まれていない三杯目を専務の前に置いた。それを小鳥はそっと下げようとすると、その手を真鍋専務に掴まれる。
「いや。ありがとう。小鳥」
おじさんとしての一言を耳にして、小鳥は少しばかりの反省をする。そんな小鳥の顔を見た白いスーツ姿の美々社長が笑った。
「知っている子供が淹れたから、ありがとう。でも、専務としては余計なことはするな。小鳥はちゃんとそれが解ったみたいよ。どうなの専務」
華やかな金茶毛をきらめかせ、いつもきらきらしている三代目、女社長の美々が小鳥の心中をすべて読みとっていた。