愛シテアゲル


 珈琲の評価が宇佐美店長から伝えられる。

 まだ雑味がある。手際よくかつ丁寧にドリップするように。――とのことだった。

 新人が淹れる珈琲だから、その評価は妥当だった。
 伝えてくれた宇佐美店長の背中で、ほくそ笑んでいる女性がいる。

「当たり前よね。困るわよ。親の顔見知りとか、会長がお気に入りのカフェマスターの孫娘みたいな感じで、完全に縁故。丁寧に育成されて甘い評価なんて出したら、真田珈琲の人選する目を疑われるわ」

 小鳥が真田珈琲の役員達と接触すると、怖い顔をする女性が一人いる。
 勤続十五年というお姉さん。日野セイコさん。

 小鳥が珈琲を言いつけられると必ず事務所で顔見知りの会話になってしまうので『縁故の贔屓』と怖い顔になり、小鳥の珈琲が厳しく評価されると正当な評価だと勝ち誇った顔をする。いわゆる真田珈琲本店のお局様だった。

 まあ。いいんです。本当のことですから。

 小鳥もそう心の中でつぶやき、気にしないようにしている。


< 123 / 382 >

この作品をシェア

pagetop