愛シテアゲル
事務所用の倉庫に収集日まで置くために、彼がそのゴミ袋を持って倉庫に入っていった。
暗くて狭いその倉庫にいる彼に声をかける。
「お兄ちゃん。疲れていない。ずっと夜遅くて」
暗がりの中、彼が振り向いた。
「全然。早く終わったら終わったで、俺は走りに行くだろう。それから帰れば、今の帰宅時間と変わらない。ただ走りに行けないだけ」
それに今は走りに行くとアイツを引き寄せるかもしれないから自粛中と答えてくれた。
「小鳥もいまは控えておけよ。峠でなくとも、港から勝岡の海岸線とか飛ばしていても危ないからな」
「うん。お兄ちゃんたちが走りに行っていないのに、行かないよ」
そう答えると、翔兄の大きな手が小鳥の黒髪を撫でた。ずっと前からそうであったように、小さな女の子に『よい子だな』と撫でる大人のお兄さんの顔だった。前はそれでも嬉しかったのに。今は、嬉しくない。
小鳥の胸に我慢していたものが溢れ出てしまう。
「翔兄……」
暗がりの倉庫にいる彼の胸に、小鳥から飛びついていた。
「こ、小鳥」
龍星轟のジャケットを着込んでいる彼の胸にしがみつくと、よく知っているお兄ちゃんの匂いがして、小鳥は泣きたくなった。
彼の肌が放つ優しい石鹸のような匂いとか、男の汗の匂い、そしてオイルの匂い。それが混ざって、彼が恋しかった小鳥をもっと泣かせた。