愛シテアゲル
まだ仕事中のお兄さん。彼の顔はここでは『お父さんの部下』。彼がいま見ているのは『上司のお嬢さん』、そんなぎこちなさ。でも、もう我慢できない。
いつも小鳥の突撃に驚いては硬直するお兄ちゃんも、徐々にその硬さを解いて柔らかに小鳥を抱きしめてくれる。
「ごめんな。あのランエボが許せなくて、しばらく俺の頭の中そればかりだった。小鳥に我慢させていたんだな」
すぐに察してくれた彼の胸で、小鳥は『ううん』と頭を振った。
「会いに行きたいよ。でも、わかっている。だっていま、お兄ちゃんだけじゃなくて、父ちゃんも、整備のおじちゃんも、整備チームの皆も、武ちゃんも、矢野じいも、お客さんや仲間の車を傷つけられてなんとかしようと動いているんだもん。私、待てるよ」
小鳥の言葉を聞くと、さらに彼がきつく小鳥の頭を抱き寄せてくれる。
そして彼が静かに呟く。
「俺がいちばん頭にきたのは、小鳥とエンゼルがやられた時だ」
静かな声、でも息が震えていた。
彼を見上げると、小鳥を見下ろす黒い眼が険しくなっていることに気が付いた。
「あのMR2は、俺と小鳥の愛車だ。しかも小鳥が乗っているときに――」
もしかして。ここのところすっごく怒った顔で不機嫌だったのは、私のため? やっと彼の真意に気が付いた小鳥は震える。
「そんなに、怒ってくれていたの?」
「当たり前だろ!」
静かな彼の、憤る声が小鳥の胸に響く。
「翔、翔兄っ」
今度は彼の首に抱きついた。ぎゅっと抱きついて、そのまま小鳥は彼の唇にキスをする。
突撃のキスに、彼が『うっ』と小さく呻く。しかも今夜の小鳥はなにも厭わず、女の自分から彼の唇をこじ開けていた。