愛シテアゲル
朝、遠く海が見えるリビングへ行くと、英児父が小鳥を見るなり言った。
「小鳥。おまえが淹れたコーヒーが飲みてえ」
「うん。いいよ」
琴子母が朝食を準備してる隣で、小鳥はドリップの準備をして湯を沸かす。
「淹れるなら、お母さんにもちょうだい。小鳥ちゃんの珈琲、おいしいもの」
朝は忙しいので、たまにしか淹れない。まだ腕にも自信がない。だけれど、両親は小鳥がバイト先で覚えてきた腕で淹れる珈琲をとても気に入ってくれていた。
「いいなあ。朝から娘が本格的なコーヒーを淹れてくれるだなんて」
喫茶業界で勤めたいことも、大好きなおじいちゃんのお店を継ぎたいことも、子供の頃からの夢。両親はそんな小鳥の気持ちをずっと前から知っているので、こうして応援してくれる。
ドリップを終え、英児父に珈琲を届ける。
「サンキュ、小鳥。やっぱ香りが違うわ」
嬉しそうに飲んでくれると、小鳥も嬉しい。
だけれど小鳥は気になっていたことを、機嫌がよさそうな父に尋ねてみる。
「父ちゃん。昨夜、三坂はどうだったの」
濃い珈琲を望んだのも、眠気が強いからなのだろう。
「ぜんぜん。俺ら以外は誰も走っていなかったわ。普通の通行車だけだったよ」
小鳥はほっとしてしまう。
父も翔も、従業員の皆も、あの乱暴な車に出会わなくてよかったと――。
もういいよ。あんな車のことは忘れようよ。私、もう、なんともないよ。そう言いたくなる。あんな粗暴なランエボに、誰にも接触してほしくない。そんな気持ちが広がっていく。