愛シテアゲル
ねえ、父ちゃん。無茶しないで……と伝えようとしたのだが。
「ああ、小鳥。そろそろ伊賀上のおっちゃんに、いつもの届けておいてくれよ」
「うん、わかった。私もそろそろだなって思っていたんだ。今日はバイトがないから届けに行くよ」
そのとき、父が心配そうに珈琲片手に小鳥を見上げた。
「まさかとは思うけどよ。海際で野郎に出くわしたら、なにもせず俺でもいい、翔でもいい、店にいる武智でも。とにかく連絡しろ」
どこにいるか、どこから出てくるのか、皆目見当がつかない。
伊賀上のおじいちゃんがいる漁村までは、海岸線の一本道。一車線。田舎道のようで中心街と地方をつなぐ主要道路なので、峠と違って交通量が多い。
「あそこで暴れられたら、巻き添え車がいっぱいでちゃうよ。さすがにアイツもそこまでバカじゃないと思うんだけど」
「ああ。父ちゃんもそう思うけどな。用心しておけよ」
ため息をつきながら珈琲カップを気だるそうにテーブルに置いた父の目元が疲れていた。
これ以上、心配はさせたくない。
「お母さんのゼットは絶対に傷つけない。だって、父ちゃんが婚約指輪より先に、お母さんにあげた婚約のプレゼントだったんでしょ」
琴子母が常々『私のゼットは婚約指輪なの』と聞かせてくれたから。エンゼルのように傷つけないよう、今度こそ守ってやると強く思う。小鳥も大好きな人から引き継いだ車を壊されて悲しかったから。両親の結納の証であるフェアレディZは絶対に傷つけないと心に誓う。