愛シテアゲル
果樹園の魔女さん。(2)
港に停泊しているカーフェリー。作業員の手合図で駐車場への誘導が始まる。
カーフェリーは好きな場所に駐車ができない。船が航行するバランスを考え、左右の重量がなるべく同じになるように誘導員の指示に従って停めることになる。
小鳥が乗ってきた銀色のフェアレディZは船底駐車場の端、軽自動車の後ろを指示される。
と言っても。車を降りても、ほかに駐車場に乗り込んできた車は、宅急便車と郵便のバイクのみ。一時間に一便の割合で運行されているのでこの島に行くフェリーはいつもこんなかんじ。自転車の高校生もいるし、おばさんもいる。島民にとっては、海のバスのようなもの。
ひさしぶりなので甲板に出て潮風に当たりながら、もう目の前に見える緑の島を眺める。
少し前までは島のてっぺんまで橙の水玉模様でいっぱいだったが、そろそろ収穫シーズンも終盤なのか、ところどろこになっている。
フェリーが着岸し、小鳥はフェアレディZで島に上陸。車の通行量も少ない海岸線の道路。お天気も良く、青い空に白い雲。そして穏やかに輝く蒼い海。この島に来るとよりいっそう瀬戸内らしい情景に包まれる。同じ市内に属するのに、島の海も空も、色合いも匂いも。城山がある街中とはまったく異なる。
子供の頃から馴染みのある道を走る。小鳥が車に乗るまでは、父や母が運転をしてその果樹園へ連れてきてくれた。いまはもう、自分の運転でその果樹園を訪ねる。そして、小鳥に任せてもらえるようになった『大人のお遣い』だった。