愛シテアゲル
やがてゴム長靴で歩く音が近づいてきた。
「大洋兄ちゃん、こっち」
小鳥の声へとそのゴム長靴の足音がさらに近づく。
「しばらくやったな、小鳥」
凛々しい眉に、ぱっちり大きな黒目。そんな美麗な顔で爽快に微笑むけれど、ゴム長靴に農作業着という男性がレモンの樹の影から現れた。
短髪の頭に黒のニット帽、そしてグレー作業着の胸元には『二宮果樹園』というオレンジ色の刺繍がある。
真鍋家の長男、『真鍋大洋(たいよう)』。小鳥より一歳年上の幼馴染み。市内にある国大農業学部の三回生。
卒業後はこの畑を継ぐために、母親のもと二宮果樹園で働く予定だと聞いている。まだ学生だけれど、普段もこうして母親の手伝いをよくしている。
小鳥と同じ。これも彼が幼少の頃から抱いてきた夢。彼の場合はもうすぐそれが叶い、そしてそれを夢ではなく跡取りとして実現して行かなくてはならない。
島の幼馴染み。地元で地元のために勤しむ両親に育てられてきた子供同士、彼とは昔からとても気が合う。
「そろそろや思うてたわ。伊賀上のじいちゃんとこのお遣い」
「うん。今朝、父ちゃんにそろそろ行ってくれと頼まれてきたんだ」
「俺と母ちゃんも気にしてたところよ」
こっち来いや。と、農作業姿の彼が畑の外へと歩き始める。