愛シテアゲル


 畑を出ると二宮の家がある。この家は、大洋の母親『珠里さん』が真鍋専務と再婚する前に嫁いでいた家。ご主人を若くして亡くされ、その後も二宮のお嫁さんとして八年も女手だけで果樹園を守ってきた。やがて、この島の中学校でクラスメイトだったという真鍋専務と仕事で再会し再婚。そうして彼『大洋』が生まれた。

 彼の母親は、再婚後『二宮姓』でなくなってもこの畑を引き継ぎ経営を維持してきた。自宅もこの島にあり、父親の真鍋専務がフェリーで通勤をしている島民一家だった。

「レモンもだいぶなくなったね」

 果樹園を少し歩いて、小鳥は季節を感じた。春を前にして、僅かに残したレモンの収穫が終わってしまう。

「そやな。今年もぎょうさん収穫できてよかったわ」
「お疲れ様。二宮のレモンが一番だよ」

 心からそう思っているので毎回挨拶のように小鳥は言う。そうすると、大洋が本当に太陽のように嬉しそうに微笑んでくれる。

 惜しいな。かなりのイケメン。いや美男子? 
 きっと美人のお母さんに似たからだと小鳥は思う。

 島の外、大きな会社のオフィスでスーツ姿で働いていたらきっと女性たちが放っておかない。
 実際に、大学でもかなり女性に声をかけられるとか。だけれど真面目で向かうところ真っ直ぐ『俺がやりたいのは畑!』。それしか見えていないような生き方をする大洋兄貴の本質を知ると、遊びたい盛りの女子大生はすぐに避けてくれるようになるのだとか。



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