愛シテアゲル
島では幼馴染みのお母さんで、両親とも親しい果樹園のおばさんとして親しみやすいけれど、いざ女として出で立つ珠里さんを見てしまうと母だの妻だの吹っ飛んでしまうほど『美しい魔女』という気の含みを漂わせる。見た目、三十代後半と言ってもいいぐらい。息子の大洋と一緒に歩いていると『お姉様ですか』と言われることもよくあるとか。
「今日はバイトはお休みなのね。どう、うちの人、厳しくしていない」
「いいえ。一人のスタッフとして厳正に接してくれています」
「そう。あの人、厳しいほど期待しているってことだから。わかってあげてね」
小鳥は首を振る。厳しいのは当たり前のことだと。
「でも小鳥ちゃんも、真っ直ぐね。うちの涼さん、小鳥ちゃんが来てくれること、ずっと楽しみに待っていたのよ。父親みたいな顔で。うち娘がいないし、大洋は畑のほうに来ちゃったし。それでも若い子を育てていきたいでしょう。知り合いの子が地元で頑張るって言ってくれるのが嬉しいのよ」
それも何度も聞かせてくれた奥さんからの言葉だった。知り合いだからこそ、わだかまりができないか、こちらの珠里おばさんも案じているのだろう。小鳥の顔を見るたびに、近頃は『あの人、厳しいけれど』と言い出すようになった。それだけ滝田家といままで通りのお付き合いを壊したくないと大切に思ってくれているのだと小鳥もわかっていた。