愛シテアゲル


「おばさんもお腹すいちゃった。一緒にお茶にしましょう」

 農作業着だけれど、そんな麗しい匂いを漂わせる幼馴染みのお母さんが、大きな業務用のオーブンから本日のスイーツを取り出す。

 キッチンの片隅には丸いアンティークなテーブル。そこに息子の大洋が優雅にティーカップを並べてくれ、美しすぎる果樹園の魔女さんが、大きなホールパイを置いた。

「わあ。今日はパイだ。なんだろう」
「今日はベイクドレモンパイ」

 魔女さんの仕草は、とても美しい。ホールのパイを切り分ける、それだけでも美しい。小鳥は幼い頃から、この綺麗なおばさんのそんな女らしさに、いつもうっとり釘付けになる。

「どうぞ、召し上がれ」

 目の前に、シンプルなパイが置かれる。

「おいしそう! いただきます!」

 元気に素直にとびつく小鳥を見て、よく知ってくれている兄貴もおばさんも楽しそうに笑ってくれる。

「いつもはレモンクリームのレアタルトパイだけれど、今日はレモンのマーマレードを使ったベイクドパイにしてみたの」
「おいしいー。酸っぱいのがいい。レモンが沢山採れる季節限定のスイーツってことだね」

 ほんとうに珠里おばさんがつくったスイーツは最高。
 小鳥はいつも、何度もそう言って頬張る。
 これが目当てでやってくる営業さんも多いというのも頷ける。



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