愛シテアゲル
いつものお茶をちゃっかり頂いた後、珠里おばさんが籐の篭に、レモンや紅マドンナ、伊予柑などの柑橘を盛ってくれる。
「それでは頂きます」
「こちらこそ、有り難うございます。小鳥ちゃん、伊賀上マスターにもよろしく伝えてね」
「はい。珠里おばさん。伝えておきます」
まだ漁村へと向かわねばならない小鳥は先を急ぐ。
篭を持って、果樹園の小坂の下へと駐車している車へと歩いていると、大洋が追いかけてきた。
「これ。昼飯の残り。途中で腹減ったら食えや」
茶色の紙袋を差し出され、小鳥は受け取る。開けてみると、生ハムのサンドウィッチ。
「真鍋さんちの生ハムサンド大好き。サンキュ、大洋兄ちゃん」
喜ぶ小鳥を、大洋がらしくない顔で見下ろしている。
しとやかなお母さん、生真面目で厳格なお父さん、そんな両親から生まれたにしては、大洋は陽気でおおらかでひょうきんなところがある。
弟の蒼志(そうし)の方が落ち着きがあったりする。そんな大洋が浮かぬ顔。