愛シテアゲル
琴子母もはやくに父を亡くしたせいか、伊賀上マスターをいまは父親のように思っているよう。だから、小鳥も『お祖父ちゃん』だと本気で思っている。
いまは暗闇に寂しく閉ざされている『シーガル』の前を切ない思いで小鳥は通り過ぎる。
店の前を過ぎて、直ぐの角を小鳥は曲がった。
漁村の家が海へ向かって何軒か並んでいる小さな道を、フェアレディZを徐行させゆっくり進む。
おじいちゃんの家はもう目の前。海の近く。
漁村の古い小さな道。両脇に民家の軒下には干物篭や干し網などが置かれている家が多い。
そんな中、ひとつだけモダンな一軒家が現れる。そこが伊賀上マスターの自宅だった。
五十歳の頃に、都会のバーテンダーから身をひいて、城山が見える一番町のホテルラウンジを最後に引退。故郷の長浜にマスターは第二の人生を生きていく為、また介護のための家を建てた。
おじいちゃんのセンスがうかがえる、海辺のモダンな家。そこだけ外国のようだった。