愛シテアゲル
どの部屋も洋式だけれど、一室だけ和室がある。
そこで母親の介護をしていたのだとか。
おじいちゃんの部屋も一階にある。和室の直ぐ隣。そして小鳥はそこもお気に入りだった。
真っ白な出窓の部屋。おじいちゃんなのに、ギンガムチェックのベッドカバーをいくつも持っていて、そして古いレコードやCDのラック。なによりも大量の本。バーテンダーはたくさん本を読まないといけないらしい。様々なカクテルが持つ物語と歴史は隣り合わせ。お客様から説明を求められなくても、そのカクテルで物語って酔ってもらわないといけないから――と言っていた。
そこは伊賀上祥蔵の世界。出窓を開けると海が見えて、波の音が聞こえて。そして小鳥が知らない大人の音楽。おじいちゃんの本の匂い。おじいちゃんが料理する匂い。ここだけ『フロリダ』。
真鍋会長がそういう。伊賀上マスターの店に行くと、キーウェストのヘミングウェイの気分だって
時々、窓の下をのんびりと横切っていく黒猫とか、ちょっと魚の匂いがする風とか。
この家のなにもかもが大好き。おじいちゃんのおうち。小鳥の田舎のおじいちゃん。
そんな雰囲気の家に今夜もお邪魔する。
介護のために建てられただけあって、バリアフリー。
リビングは吹き抜けで天井にはブロンズ色のシーリングファン。
壁も窓枠もアンティーク調の階段手すりも真っ白で、二階の窓から燦々と日射しが降りそそぐ。
介護したお母さんも、そんな家をとても気に入ってくれたんだとか。
今日は夜だから、その窓からは星空が見える。月が綺麗に見える日もある。
そういうなにもかもが、中心街でも珍しい設計。建ててからだいぶ時が経ったとはいえ、だからこその趣も加わって、まるで海辺の別荘のよう。
暖が整っているリビングで、おじいちゃんは映画を見ながら食事中だったようだ。