愛シテアゲル
10.恋はいちごの香り。(2)
食器棚の前には、小さなカウンターが設えてある。
そこに伊賀上マスターが出したのは、凍らせた『苺』、『ラズベリー』、『クランベリー』。そして今日、小鳥が二宮からもらってきたレモン。そしてリキュールの棚からいくつかの瓶が並べられる。
今夜はシェイカーではなく、小さなミキサーにクラッシュド・アイスと、ベリーと、レモン、そしてリキュールが入れられる。それをおじいちゃんがミキサーでブレンドする。
真っ赤なフローズンタイプのカクテル。それが新しいバカラのグラスに注がれる。最後にミントの葉がちょこんと乗せられた。
「苺が大好きな『リトルバード』だよ」
「……それ、このカクテルの名前?」
おじいちゃんがにこりと笑って頷いてくれる。
「苺が好きな女の子が、ちょっと背伸びをして初めて呑むカクテルという意味」
それが『リトルバード』。
まだ飛べない小鳥さん、どうぞ召し上がれ。
あまりにもいまの自分にピッタリで、さきほどやっと抑えた涙がまた滲んだ。
「いただきます」
静かに、冷たいグラスを手に取った。