愛シテアゲル
漁村の伊賀上邸に行くと、ほんとうに元気になれる。
なにもかもが小鳥を包んでくれる、優しい空間。すっかりいい気分。天気も良くて、朝から煌めく瀬戸内を横に海岸線をゆったりと運転をして龍星轟まで向かう。
朝一番、龍星轟の店先へと小鳥は到着する。
いつも通り、朝一番に出勤してくるのは事務の武智専務。そして、整備のスケジュールを管理している桧垣 翔。銀色のゼットを事務所前に停車させ、小鳥はいつもの朝早い二人を見つけて微笑んでしまう。
だけれど。よく見ると二人だけではなかった。朝から龍星轟の男達が集まっている。矢野じいも、清家のおじさんも、兵藤のおじさんもいる。中堅整備士の藤田さんに、若い整備士のノブ君にマコちゃんも。
そして、親父さんが社長席でもの凄い顔で腕を組んで座っている。朝から尋常ではない様子に空気を小鳥は感じ取る。
いつもは邪魔をすまいと、こういう時は事務所を避ける小鳥だが、今日は我慢できずに事務所に駆け込んだ。
「父ちゃん、ただいま」
小鳥が帰ってきた姿を見て、どうしてか龍星轟の男達がホッとしたような顔をした。だが小鳥は『マコちゃん』を見て青ざめる。
「ま、慎(まこと)ちゃん。どうしたの、それ」
額にガーゼを張り付けた手当がしてある。少し血が滲んでいて小鳥はますます驚き硬直した。