愛シテアゲル
街灯も少ない海沿いの暗闇を、今夜もMR2は低空飛行で鋭く飛ぶ猛禽のよう。
海の波の音を、高く唸るエンジンがかき消していく。
その隣で、龍星轟のジャケットを羽織ったデニムパンツ姿の彼が、あの涼やかな眼差しに戻って夜道を見据え真っ直ぐに走っている。
言葉をかけたくて、小鳥は躊躇う。
やっぱり自分は子供なのかなと。
「大人しいな」
「え」
「どうした。いつもなら乗っている車の話をいっぱいしたがるのに。そうでなければ……。今日なら、伊賀上マスターの家であったこと、どんな話をおじいちゃんとしたのかすぐ俺に教えてくれそうなのに。初めてのアルコール体験が、大好きなおじいちゃんのカクテル、しかもオリジナルレシピの『リトルバード』。メールで先に知っていても、小鳥が嬉しそうに楽しそうに話してくれる時を、俺も楽しみにしていたんだけれどな」
いつもの小鳥なら、彼の隣で良く喋る。それをお兄ちゃんが静かに聞いてくれる。
嫌そうな顔などしないで、優しく頷いて相づちを打って、時々大人の言葉を挟み込んでくれる。