愛シテアゲル
「だから俺。今夜は一緒に走ろうと、親父さんの前で平気で誘っただろう」
「うん、そうだった。あれ、私、びっくりしちゃったんだから」
あれが『俺はもっと大丈夫』という証明だったらしい。
「いや、やっぱり俺が馬鹿だった。これ貸してくれ」
小鳥の手からそっと、彼がカモメのキーホルダーを取り去る。そこから翔は銀色のリングを外してしまう。
そして小鳥の手を静かに取った。
彼の熱い指先が、小鳥の指を爪先まで優しく伸ばす。
「あの晩、俺からこうして指につけてあげればよかったのに……。俺も、カノジョに指輪を贈るのは初めてで照れくさかったんだ」
でも、小鳥は彼の心の奥に潜む本当の気持ちを感じ取っていた。
指輪を贈ったのは初めてじゃないよね……。瞳子さんに慌ててプロポーズをした時も指輪を贈ったよね。でも、受け取ってもらえなかった。
彼女が他の男性との人生を選んだ日。ほんとうはお兄ちゃんにとって『指輪』はトラウマ。
受け取ってもらえるかどうか、緊張していたのかもしれない。なのに、それでも小鳥の二十歳の記念にと指輪を選んできてくれた。
それとも、指輪を贈りきれなかった男がそれを受け取ってもらって初めて『男になれる』という気持ちもあったのではないかと――。