愛シテアゲル
「ありがとう、お兄ちゃん。大事にするね」
と、彼の顔を見上げようとしたら、もうすぐそこに翔の顔が近づいていた。
「お、お兄ちゃん……」
大きな手が助手席にいる小鳥の黒髪を撫でる。
「この前は小鳥からだった。今夜は俺から……」
男らしい薄い唇が小鳥の頬の傍で囁く。
長い指が小鳥の唇を確かめるように撫でた。
小鳥はロケットのように彼にキスをする。
でも……お兄ちゃんの彼は、ゆっくり、彼女の唇の形と柔らかさを指先で感じてから、キスをする。
今夜は優しいキス。
でも小鳥は彼をうんと愛したくて、胸が急く。
それでも優しく静かに唇を愛してくれる彼に揃え、そっと大人しく彼の唇を吸った。
熱く、濃密に、そしてゆっくりと愛しあう。
お兄ちゃんからのキスは大人……。
気持ちが溢れるまま突撃しちゃう女の子のキスみたいに騒がしくない。
あれはあれで、情熱的で良かったけれど。
とろとろの蜜をゆっくりとふたりで舐めあっている。
翔兄の静かで熱いキスはそういうキス。
何かに似ていると思った。そう、あれと一緒。
おじいちゃんがつくってくれた、初めてのカクテルと一緒。
とろっとした冷たいお酒なのに、口に含むと身体が熱くなる……。
甘い苺なのに、大人の苦みもある。
恋みたい。ほんとうに、似ている。
どこにもないのに、苺の匂いが鼻先をかすめていく。
キスもすっかり慣れて、小鳥からも彼の黒髪を指にすかして撫でた。熱い吐息が止まらない。