愛シテアゲル


 矢野じいが言ったとおり。アイツはキチガイ! 

 自分の車だってただじゃ終わらないだろうに、まるでランエボを生け贄にするかのように乱暴に突っ込んでくる。

「この野郎。二度も、二度と、エンゼルを壊されてたまるか」

 翔がハンドルを大きく切る。クラッチからアクセルへと長い足が激しく動き、ハンドルも忙しく回す。車のリア(後部)が大きく滑った。

 小鳥の額に汗が滲む。ランエボと差し違える寸前、この古くて狭い海岸線、リアが振れたら後ろの防波堤にこすれる――、またエンゼルが――。だがやはり彼は乗り慣れている男。すれすれにかすめ、エンゼルをドリフトで反転させランエボをかわしきった。

 すごい、やっぱりお兄ちゃんはすごい! 私だったら、いまのぶつけている!

 MR2にかわされたランサーエボリューションも、翔がかすめた海側の防波堤すれすれで停車した。

「いくぞ、小鳥。コイツを親父さんのところまでひっぱっていく」

 すかさず翔がアクセルを踏む。ランサーエボリューションがいなくなった反対車線へと発進させた。

 エンジン音を高く夜空に響かせるMR2。その後ろからまた激しいエンジン音。白いランサーエボリューションが猛スピードで追ってくる。


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