愛シテアゲル


「来たよ。お兄ちゃん!」

 信号が青になる。ランエボが真後ろで煽る寸前、青いMR2が発進する。
 そのまま峠道に入った。その途端、向こうが真後ろではなく真横につこうと並んできた。

 一車線なのに、対向車線にそうして入ってくる。本当にキチガイ――。

「対向車線を使って、エンゼルの真横につけています。もうなにもかも捨てているように感じます」

 翔はもう父との交信と運転に集中している。だから、小鳥も余計なことは話しかけず助手席で黙っていた。

「社長。確証がないとお伝えできなかったことなのですが――」

 『狙いは俺だ』。小鳥に教えてくれた確証がない『予測』を、英児父にも報告しようとしている。

 最初のカーブにさしかかる。翔が通信をやめ黙ってステアリングを回す。

 最初のカーブはMR2がインコース。小鳥が乗っている助手席から見える外は峠斜面の土砂を保護しているコンクリート。だが、そこでランエボが小鳥にもやったように、MR2をインカーブに閉じこめ岩肌へと幅寄せを始めた。

 父との通信会話を止め、翔がハンドルを回しながら目は真横に流して、寄ってくるランサーエボリューションを窺っている。

 小鳥がいる助手席側のドアに峠斜面コンクリートすれすれに寄る。翔の運転席側にランサーエボリューション。そして小鳥はついに見てしまう。運転手の顔を――。




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