愛シテアゲル
そこでまたカーブが見えてくる。また一勝負始まる。翔がいったん黙る。
対向車線を走るリスクを一応考えているランサーエボリューションは一度後退してからは、MR2の後部にピタリとくっついていつでも押し付けられる位置にいる。
カーブにさしかかる。
今度はMR2がアウトコース、ランエボがインコース。
だが先ほどのカーブで頭ひとつ分翔に抜かれたランエボも、今度はかなり本気。
インカーブで抜かしていけばいいのに、遠心力で大きく回るMR2の不利を利用してまた幅寄せをしてくる。
早く走り抜けることではない。彼の目的はまさに『車体潰し』!
くっ! 歯を食いしばる翔から、力んだ声が漏れる。
流石の翔もアウトカーブの不利を突かれ、思うままに峠斜面へと吸い寄せられ――。
ぶ、ぶつかる! 小鳥も目をつむった。
助手席側にいると本当に斜面は目の前。
エンゼルがまたこすれて壊される!
その時、小鳥の耳に聞き覚えのある爆音が聞こえた。
ドウン!
火を噴くようなエンジン音。
それが聞こえた途端に、反対車線を陣取っていたランサーエボリューションがスピードを上げ、MR2の目の前を駆け抜けていってしまう。
横にぴったりつけて、体当たりを望んでいた男が逃げるように去っていく。
同時にMR2、翔の運転席の横には真っ黒な影が寄り添っていた。
日産スカイライン、R32GTR――。
黒い車が白いランサーエボリューションの後ろをぐいぐいと煽っている。
「父ちゃん!」
「社長!」