愛シテアゲル


『小鳥、邪魔するなよ。訳あり関係を持つ男と男のケジメだ。それに、いまから翔がお前の敵を討ってくれる。今度はしくじるなと伝えておけ』

 言い終えると、目の前で並んで走っていたスカイラインがスピードを上げ、ランエボを抜かし対向車線から外れる。ランエボの目の前に滑り込んでも、そのままスピードを落とさずに、さっさと先へ走り去ってしまう。

「小鳥、行くぞ。アイツを振り切って、ダム湖の駐車場に追い込む」
「追い込む? どうやって?」
「すこし荒っぽくなるかもしれない。掴まっていろよ」

 英児父が整えた勝負のステージへと、翔のMR2が突き進む。

 それでも前をランエボに獲られてしまっている。どうやって抜かしていくのか――。

 翔も対向車線から攻めるのかどうか。どこかをポイントに狙いを定めているのか。インカムも外して集中している彼にはもう話しかけられない。

 でも。小鳥は……。ギアを握っている彼の手に、そっと自分の手を乗せた。

 お兄ちゃんが失恋して、最西端にある岬まで飛ばした夜も、小鳥はこの車のこのシートに座っていた。

 今夜も一緒。知っている人に裏切られただろう貴方の傍に、今夜も私は一緒にいる。これから荒っぽい争いが繰り広げられるとしても……。



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